ある日の外来。その日はそれほど混んでいない日でした。
手の怪我のために通院しているおじいさん。
こちらは田舎なので、車社会です。
その患者さんは、最後にバスに乗ったのはバスガールさんが乗車していた時代。ワンマンバスになってからは、乗ったことがなかったのだそう。
手の怪我をして運転できなくなったので、数十年ぶりにバスに乗って来ましたと。
「家からバス停まで20分ほど歩きました。歩くと、車の時とは見える景色が違うんですね。あ~こんな所にこんなお店があったのかと、いろいろ発見しましたよ。」
と、普段は気難しそうな顔を、ニコニコさせて話してくれました。
「ダイソーで、パスケースも買ったんですよ!」と、駅前でバスを乗り換えるついでに、駅ビルで買い物をすることも楽しみになったようです。
「今日は暑くなるみたいですから、帰りもお気をつけてくださいね。」と言って診察終了。
穏やかな時間。あー毎日こんな感じならいいのに…と思ってしまいます。
「医者」のドラマというと、「救急科」やら「外科」やら、バリバリッ!としたイメージのものが多いです。(最近はそうでもないかな)
私は、そんなバリバリッとは程遠い、とあるマイナー科にいます。
救急科とか外科の先生…どうしても「怖い」イメージがあって、苦手です(笑)あくまでイメージです。
なんでそんなイメージを持ったかというと、研修医時代にいた病院の、救急科の先生が怖かったから~。
研修医時代、私にとっては暗黒時代でした。「できレジ(できるレジデント)」と言われるように、充実してキラキラとした研修医時代を過ごした人もいるでしょうけど、私は正反対。
お給料が倍になると言われても、ぜったいに戻りたくありません。
生来のんびり屋で、不器用で、パッパッと物事を判断して行動するのが苦手な私。医学部に入学して、徐々に医療の世界の厳しさが見えてきて…「この職場、わたしには無理なんじゃあ…。」と気づいたときには、時すでに遅し。
予想通り、つらーい研修医生活のスタートです。
特に救急科には、怖いというか、人格的に…??な先生が何人かいて、いろいろキッツーなことも言われました。大勢の前で罵倒されて、それでも涙は流すまいと、気合いで涙を塞き止めた時もありました。
そんな自尊心ぐちゃぐちゃの日々。「私って本当に使えない人間だな。」と苦しい毎日でしたが、それでも底の底の、本当~の底の方には「でも、私はできる人間だ。」という思いがありました。
別に、「私だって、本気を出せばできるのよ!」みたいな痛い考えではありません。自分の得手不得手を理解した上で、自分にも見せ場はあると自覚していた=自分を全否定することなく守ることができていた。ということです。
私の場合、救急、外科の様なスピーディーな対応が苦手な反面、比較的人当たりはよく、患者さんとじっくり向き合うことは得意だと感じていたので、自分のフィールドはそちらにあると思っていました。
なので、苦手な場所でできなくても、必要以上に凹まない。(もちろん真面目に取り組みはしました。それでも、できないものはできない!)
ただ時間が過ぎる(研修期間が終わる)のを、じっと待っていました。
そうは言っても、あの頃は体調はあまり良くありませんでした。急に動悸がして汗が吹き出てきたり、謎の腹痛や突然の高熱によく悩まされたりと、それなりにストレスはかかっていたのでしょう。でも、自分でも「まあストレスのせいだろう。今は仕方ないよな~。」と分かっていたので、あまり気にしないようにしていました。
こんなことを書いていますが、研修医時代、楽しいことも勿論ありましたよ。二年目に行った病院では、マラソンに熱心な先生がいて、毎週水曜日の夜は有志で集まって練習会。夜な夜な2000mTT(タイムトライアル)などやっていました。みんなでリレーマラソンに出たり。ロード10kmのベスト40分が出たのもこの頃です。ここの病院の先生方は、皆さん優しかったです。
「若い頃の苦労は買ってでも…」と言うけど、何とも言い難いですね。苦労を買った結果、潰れてしまっては元も子もないし。私自身は、「あの頃、あれだけ頑張れたんだから。」と少しは自信になりました。自分の限界を引き上げてもらったような。
でもこう言えるのも、無事に終えることができたからです。仮にドロップアウトしていたら、そんなふうには思えなかったでしょう。
ちなみに、今でも救急科やICUに往診に行く時は少し緊張します。できるだけ気配を消して、そそくさと帰ってきます…。
他科の先生に電話するのも苦手です。怖い対応されたら嫌だなーって思うから(笑)
医者だけど、医者恐怖症…??
でも、常に緊迫した最前線で、命を守ってくれているのはその怖い(と私が勝手に思っている)先生達なんです。本当に頭が下がります。
まあ、こんなカッコ悪い医者もいるということで。
とある地方の病院で、挙動不審な女医を見かけたら、それは私かもしれません…。
お読みくださり、ありがとうございます。